この間は、コンセプトのない店が、とかとやかく言ってしまったので、
改めて、加加家のコンセプトについてお話しようかと思います。笑
まずは、名前。
名は体を表すとも言うぐらい重要なポイントです。
「加加家」
中国語読みで「ジャジャジャ」と呼びます。
漢字の意味は日本語と同じなので、単純に「加わる+加わる+家」という意味です。
最後の「家」に込められているのは、
店のようではなく、家にいるような気分を味わってほしいという気持ちです。
家に遊びに来たかのようにリラックスしてほしい、
友達同士のような、店員とお客さんの関係性でありたい、
値段や時間、他人の目など、変な気を使うことなくいつでも来られる場所でありたい、
商売感ではなく、おもてなしの心を大切にしたい、
そんな意味が込められています。
そして、その前の2つの「加」。
加わる、というのは、お客さんや、店員、いろんな人がここにやって来て、
その化学反応で空間(家)が出来上がる、という意味。
場所や空間というのは、その時いる人によって作られるものだと思っていて、
いろんな人が集まることでコロコロと顔を変えるような楽しい場所になったり、
お客さん同士につながりが生まれて、何か面白いことが起こったり、
そんなものが生まれる場所でありたい、という思いを込めました。
また「ジャジャジャ」は台湾語で、
「こっちこっち」や「食べて食べて」という、ウェルカムな気持ちを表す意味を持っています。
台湾は中国語の国だと思われている方が多いと思いますが、
もともと台湾語が共用語であり、かつての首都台南では、今でも当たり前のように台湾語が使われています。
というかある程度の年次まで行くと、むしろ中国語が話せず、台湾語のみという方も多くいるほどです。
「お客さんを差別することなく、誰でも気軽に来られる場所」というのがコンセプトの一つなので、
台南でやる以上、台湾語の意味を加えたかったこと、
また変にクールな名前ではなく、覚えやすく、親しみのある名前をつけたくて、
「加加家(ジャジャジャ)」という名前をつけました。
この名前、コンセプトを元に、
店舗の内装やメニュー、お客さんの体験に関わるもの全てを決めています。
<物件&場所>
物件探しの時に一貫して決めていたのは、
*古民家であること(台湾の伝統的な建築形式が残っていること)
*大通りに面していないこと
*市の中心部にあること
の3つです。(もちろん予算とかも相当考えてます笑)
家感を出すのに、明らかに店だなと思うような物件は嫌でした。
ガラス張りの入り口とか、レールやスポットライトのあるような感じは落ち着く家ではないので、あくまで以前家だった物件を改装する、というところにこだわりました。
また、大通りに面していては騒音の関係で落ち着かないし、普通家ってそういう場所にあるものではないと思うのと、かといって郊外の離れた場所に位置してしまってはアクセスが悪く、いつでもいける場所にはならない。
大通り沿いではないけど、アクセスの良い場所。そのバランスをとることも意識しました。
相当苦労しましたが、それらに適する物件を台湾移住5ヶ月目でやっと見つけることができました。
ちなみに台南の基本移動手段は原付で、駅やバス停を意識する必要がなく、
かつカフェに行く時には事前に調べてから行く傾向にあるので、
路地裏の見えにくい場所でビジネスをしても、SNSなどで集客手段が確保できれば問題はないです。
そういう意味では、物件のロケーションに関してはかなり柔軟に決めることができました。
<内装>
落ち着いた家感を出すために、色はほぼ白(黄色味のあって温かい白)と、ウォールナットのような深い茶色の2色しか使っていません。
そして台湾の古民家は壁がコンクリートなので、冷たい印象を与えないよう、凸凹感があって光を反射しにくい、珪藻土を使用しました。
また、電飾には和紙を使用したり、電球の色を暖色かつ暗めにすることで落ち着きのある空間をイメージし、かっこいい印象を与えつつも、冷たいクールさにならないことを意識しました。
客席は全て畳。座布団を敷き、おばあちゃん家の座敷にいるような気持ちになる設計をしています。また客席に上がるには靴を脱がなければならず、それもさらにリラックス感、家感を感じさせる狙いがあります。
ただし、完全に和風にしては台湾でやる意味がないので、台湾の古民家特有の石の階段や天井の装飾、石畳のような床はそのまま残し、和台折衷、地元の人にも受け入れられやすい雰囲気を残しました。
席は、掘りごたつ風のカウンターのみ。
(今はビジネス的な必要に駆られて仕方なく増席しましたが、、、)
来た人は、全く知らない人と隣り合わせで座らなければなりません。隣の人とテーブルも座席もシェアしなければいけないことで、お客さん同士の距離感を近づけ、壁を壊す意図があります。
そしてバリスタも、1mのテーブルを挟んでほぼ同じ目線感になるような高さの座席になっており、かつテーブルも仕切りがなく、バリスタとシェアです。
席を分けたり、テーブルを区切ったりしないことで、お互いがお互いの距離を意識し、つながりを生みやすい環境を目指しました。
カフェとしてこのスタイルをやっている店がないので、受け入れられるか不安はありましたが、
小吃(ローカルレストラン)のお店を見てみると、お客さん同士が席をシェアしあったりするなんて普通だったし、フレンドリーなカルチャーの中では絶対に受け入れられる土壌があると思い、思い切ってカウンターのみに振っちゃいました。
今ではここで友達になった人同士が、一緒にご飯を食べに行ったり飲みに行ったり、自分たちもお客さんと一緒に他のコーヒー屋さんに行っておしゃべりしたりするのが普通になっています。
(今となってはむしろ、席のシェアは台南では絶対に受け入れられる土壌があるはずなのに、なぜ他のカフェたちが独立席しか設けていないのかが不思議に思うほどです。笑)
<コーヒー>
コーヒーのクオリティには妥協はしてませんし、豆も機械も超一流のものしか使っていません。でも、うちのコーヒーは他のお店に比べて20-50%ほど安めです。
もちろん利益的な計算はした上で、ギリギリの低めの値段設定を目指しました。
というのも、台湾のコーヒーの値段は日本、東京より高いほどで、台湾の平均給与や物価から考えても、明らかに毎日気軽に飲めるようなものではなかったからです。
持論ですが、コーヒーは特別な飲み物ではなく、ちょっと落ち着きたい時や、考え事をしたい時、友達と話をしたいときなどに気軽に飲めるものであるべきだと思っています。
そうすると、他の競合カフェの値段設定ではそれは絶対に成し得られない。(金持ちを除く)ので、下げました。
(そしてこれが、他のカフェオーナーたちの反感を結構買ったようです。初めの頃によく偵察に来ていた他のカフェの人たちが、口を揃えて文句を言ってきました。笑)
ただし値段を下げることで、品質イメージの悪化があることには気をつけました。
人は、安かろう悪かろう、と思うものです。
メニュー上のコーヒーの説明の仕方を、農園や処理法など詳しく記載することで品質への意識を発信し続けること、お客さんの質問に全て答えられるように知識を身につけること、またトップクオリティのコーヒーショップが使っている機械を海外から輸入、導入し、入り口から見える位置に設置することで、コーヒー好きの興味を引きました。彼らが味や品質について発信してくれれば、僕たちが言うよりも第三者視点で説得力があると思ったからです。
これも狙い通り、台南では珍しい最新鋭の機械を導入したので(そのおかげで貯金が底をつきましたが)、安い値段なのにも関わらずコーヒー好きがこぞって集まり、今では台南を代表するコーヒーの美味しい店との評価を受けています。
<メニュー>
他のメニューに関しても、家でおもてなしをするのがコンセプトなので、
他の店が作った出来上がりのものを買ったりすることはせず、
飲み物から食べ物、デザートまで、全て手作りのもの、コーヒーも自家焙煎のもののみを使用しています。
それどころか、テーブル、畳の席、珪藻土作業、塗装、水回りの工事も全てDIY、メニューは手書き、コーヒー豆やその他のパッケージも全て手書きものから自作しています。笑
また台湾では珍しいのですが、時間制限と、最低オーダーの壁を取っ払いました。
(これも今でも色んなところで論争を生んでしまっています。笑)
ほとんど全てのカフェでは、最低オーダーしなければいけない量or物が決まっていて、それは何も頼まずに居座るお客さんが非常に多く、それを防ぐためになります。
ただ、僕はそのリスクをとってでも、気軽に来られる店を作りたかったこと、
またそれを設定してしまうことが、お客さんを第一に考えるコンセプトを作った気持ちを裏切ることになり、一つでもそういう妥協を許してしまうと、どんどん崩れていきそうで(ビジネス上の利益がコンセプトよりも上位になってしまいそうで)、怖くてそのまま堅持しています。
そもそもこういうのは、マナーを守らないお客さんを基準に考えて設定されるのですが、それが良いお客さんの不利益を生むことも多々あります。
自分は良いお客さんを基準に考えたいと思っています。
お客さんを信じないことで、良いお客さんに対しての不利益が発生するぐらいなら、お客さんを信じることで、それを悪用しようとする人たちが生み出す不利益を自分が被った方がましだと真剣に思っています。
暑苦しいですね、すみません。笑
<サービス>
家でのおもてなし、なのでサービスのクオリティにはかなり気をつけています。
台南のカフェは、水やメニューがセルフサービスだったり、自分で注文にいくところが多かったりするのですが、うちはお客さんの水の量に気を配って足したり、注文はこちらから聞くようにしています。
また、細かいですが食器を置く位置や、スプーンの向きなどお客さん視点でストレスのないようにするところはもちろん、一つ一つの動作の優雅さ、綺麗さ、流れるようなスムーズさみたいなところには結構気を使っています。
それに、もの(ドリンクやケーキの仕上げ)はお客さんの目の前で作ることで、目でも楽しめるような体験を心がけています。
特にコーヒーに関しては、コーヒー屋を名乗っている以上、クオリティの担保がないとただのコンセプトショップで終わってしまうので、プロフェッショナル感のある、作っている姿を見せることで、美味しそうだと思わせる見た目もかなり意識しています。
またお客さんに積極的に話しかけたり、関係ないお客さんを会話に巻き込んだり、他愛のない話をすることも、業務上で重点を置いています。
<日本感>
これはコンセプト上では、家感のイメージがうちのおばあちゃんの家だったこと、というのはありますが、それよりも差別化戦略の一種という位置付けが強いです。
日本の感じが出ることはかなり意識しました。というのも、台湾での日本人気はすごく、日本のファッション、食、音楽、伝統、様々な分野まで日本の人気は浸透していて、台南でも日本感を模した店がいっぱいあります。(ただその中で実際日本人がやっている店はほぼありません)
なので、そもそも自分の存在自体が差別化、マスコット化できると思い、日本感は結構強めに打ち出しています。そして、さらに尖ったものにするために岐阜を意識しています。笑
畳や珪藻土、のれんや和装、お香や抹茶、ほうじ茶のメニューに、富士山をかたどったパウンドケーキに始まり、美濃和紙の名刺や照明、美濃焼のカップや抹茶碗など、自分の出身地である岐阜をあえてアピールすることで、品質的な分かりやすさに加え、ものを通して自分への興味をも喚起しました。
結果、雑誌や新聞で紹介されたり、インスタなどの投稿も「岐阜出身の加藤さん」「日本人が開いたカフェ」みたいなのがかなり大々的に言われるようになりました。笑
特に雑誌やウェブの記事系のものでは、すべて第一文がこんな感じなので、やはり日本人のイメージの良さと、特別感を感じる結果となりました。
(なので、開業したい日本人、ぜひ台南に来てください!笑)
店を立ち上げる中で、ビジネス的な制約(上から落ちてくる売り上げや利益のターゲット、株主やそれに伴うもの)から離れることができたので、かなりコンセプトに対して愚直に作れたなと思っています。
もちろんお金が絡むことなので、開店までの時間制限や利益ターゲットなどはどうしても生まれてくるとは思いますが、こうやって色々考えるのが、自分で何かを立ち上げる上で一番面白いのになーと思っています。
またすごい最近なのですが、昨日またコンセプトのないカフェのインスタを見て、残念な気持ちになりました。。。
せっかくやるのなら、なんでもっと突き詰めて考えないのかなと不思議でならないし、何よりも見てくれの良さでお客さんを惑わすのを本当にやめてほしいなと思います。
店とお客さんとの間には絶対的な知識レベルの差があるので、お客さんは惑わされて当たり前なんですよね。。
マーケティングって、そのものの能力以上に良く見せることでもなく、ないものをあるように見せることでもない。
それはマジシャンの仕事だって、この間みたコナンの映画でも怪盗キッドが言ってました。
(ちなみにそのタネを暴くのが探偵の仕事らしいです。さあ、皆さん探偵になりましょう!!)
ものや人が本来持っている価値と、それを必要としている人をつなぐ、
と言うのがマーケティングの本来の役割だと僕は思っていますし、
何があっても、そこから離れないような仕事をしたいですね。